一般の直交座標系と3次元Euclid空間の関係

arg maxarg min\providecommandrecterf\providecommand\providecommand\providecommandPr

はじめに

円柱座標系や球座標系といった直交座標系とデカルト座標系との対応関係を整理する。ベクトル解析で扱うのは、(デカルト座標系ではない)直交座標系上の座標変数を可逆で滑らかな写像によってデカルト座標系上の座標変数に移すケースである。本記事では計量係数や単位ベクトルの関係を整理し、デカルト座標系で定義された勾配,発散,回転,Laplace作用素を直交座標系の座標変数を用いて表現する際の公式を導出する。

座標変換

T:R3R3は可逆でありC1級であるとする。TのJacobi行列の列は互いに直交するものとする。uR3,r=T(u)とする。例えば球座標系ではu=(r,θ,φ)であり、r=ixx+iyy+izz,(x,y,z)=(rsinθcosφ,rsinθsinφ,rcosθ)である。次式で定める量をuに対するrの計量係数(Lamé coefficient)と呼ぶ。

hi:=rui2(i=1,2,3)

hiTのJacobi行列Jの第i列のノルムであり、逆写像定理からJは可逆なのでhi0である。

次式で定める単位ベクトルを「ui方向単位ベクトル」と呼ぶ。

ji:=1hirui

TのJacobi行列の列が互いに直交するため、j1,j2,j3は互いに直交する。

表記の慣習上の注意

Rnという記号は複数の文脈で使われる。ある時は単にRの直積集合を表す記号として、またある時はn次元Euclid空間を表す記号として使われる。例えば球座標系の(r,θ,φ)が属する構造は3次元Euclid空間ではなく単にRの3つの直積集合であり、そのTによる像(x,y,z)もまたRの3つの直積集合上の量である。そして(x,y,z)と3次元Euclid空間上のベクトルixx+iyy+izzは一対一で対応するから、しばしばこれらを同一視する。

単位ベクトルの変換

主張

既出の記号の定義は引き継ぐ。直角座標系の標準単位ベクトルは直交座標系の単位ベクトルを用いて次のように表せる。

ii=j=131hjriujjj(i=1,2,3)

つまり行列を用いて次のように表せる。

[i1,i2,i3]=[j1,j2,j3]JH1

ここにJTのJacobi行列であり、H:=diag(h1,h2,h3)である。

導出

j1,j2,j3R3の正規直交基底であるから次式が成り立つ。

ii=j=13(iijj)jj=j=13(ii1hjruj)jj=j=13(ii1hjk=13rkujik)jj=j=131hjriujjj

◻

ベクトルの成分の変換

主張

既出の記号の定義は引き継ぐ。3次元Euclid空間上のベクトルA(r)=i1A1(r)+i2A2(r)+i3A3(r)u1,u2,u3直交座標系で表したものをj1A~1(u)+j2A~2(u)+j3A~3(u)とするとき、A1,A2,A3A~1,A~2,A~3の間には次の関係式が成り立つ。

[A1,A2,A3]=JH1[A~1,A~2,A~3]

ここにJTのJacobi行列であり、H:=diag(h1,h2,h3)である。

導出

=[i1,i2,i3][A1,A2,A3]=A(r)=j1A~1+j2A~2+j3A~3=[j1,j2,j3][A~1,A~2,A~3]=[i1,i2,i3]JH1[A~1,A~2,A~3]

◻

勾配

主張

既出の記号の定義は引き継ぐ。ϕ:R3CR3上でC1級であるとする。ϕ~(u):=ϕ(T(u))とする。ϕの勾配rϕ(r)uを用いて次式で表せる。

rϕ(r)=i=13jihiϕui=[j1h1,j2h2,j3h3]uϕ~(u)

導出

ji=1hirui=1hiuij=13rjij=1hi[i1,i2,i3][r1ui,r2ui,r3ui][j1,j2,j3]=[i1,i2,i3][1hjriuj](i,j){1,2,3}2=JH1

ここにH:=diag(h1,h2,h3)であり、JTのJacobi行列である。 以上より次式が成り立つ。

[i1,i2,i3]=[j1,j2,j3]HJ1

ϕriを評価すると次式を得る。

ϕri=j=13ϕ~ujujrirϕ(r)=[ϕr1,ϕr2,ϕr3]=[ujri](i,j){1,2,3}2[ϕ~u1,ϕ~u2,ϕ~u3]=(J1)uϕ~(u)

最後の等号はu=T1(r)と逆関数定理による。以上より、次式が成り立つ。

rϕ(r)=[j1,j2,j3]HJ1(J1)uϕ~(u)

J1(J1)=J1(J)1=(JJ)1であり、Tに関する仮定からJの列は互いに直交し、計量係数の定義からJJの第i対角成分はhi2である。よって(JJ)1=H2であり、次式が成り立つ。

rϕ(r)=[j1,j2,j3]H1uϕ~(u)=[j1h1,j2h2,j3h3]uϕ~(u)

◻

発散

主張

既出の記号の定義は引き継ぐ。さらにTC2級であるとし、hiui=0(i=1,2,3)が成り立つとする(例: 円柱座標系, 球座標系)。3次元Euclid空間上のC1級のベクトル場A(r)=i1A1(r)+i2A2(r)+i3A3(r)u1,u2,u3直交座標系で表したものをj1A~1(u)+j2A~2(u)+j3A~3(u)とするとき、次式が成り立つ。

rA(r)=1h1h2h3[h2h3A~1(u)u1+h3h1A~2(u)u2+h1h2A~3(u)u3]

導出

(1)rA(r)=i=13Ai(r)ri=i=13j=13Ai(r)ujujri=i=13j=13(ujk=131hkriukA~k(u))ujri

最後の等号成立はベクトルの成分の変換による。

まずujriを評価する。JTのJacobi行列とすると次式が成り立つ。

ujri=J1[j,i]=(H2J)[j,i]=1hj2J[i,j]=1hj2riuj

式(1)のA~k(u)に関する項に着目すると、以下のように計算される。但し以下の式でδi,jはクロネッカーのデルタを表す。

=i=13j=13(uj1hkriukA~k(u))1hj2riuj=j=131hj2i=13(uj1hkriukA~k(u))riuj=j=131hj2i=13[(uj1hk)A~k(u)riukriuj+1hkA~k(u)ujriukriuj+A~k(u)hk2riujukriuj]=j=131hj2[(uj1hk)A~k(u)rukruj+1hkA~k(u)ujrukruj+A~k(u)hk2rujukruj]=j=131hj2[(uj1hk)A~k(u)hk2δk,j+1hkA~k(u)ujhk2δk,j+A~k(u)hk2rujukruj]=1hk2[(uk1hk)A~k(u)hk2+hkA~k(u)uk]+A~k(u)hkj=131hj22rujukruj(3)=1hkA~k(u)uk+A~k(u)hkj=131hj22rujukruj(2)(仮定よりuj1hk=0)

式(2)を評価する。j=kのとき次式より0である。

2ruk2ruk=12uk(rukruk)=12hk2uk=0

jkのとき次式を得る。

=1hj22rujukruj=1hj22rukujruj=1hj2×12uk(rujruj)=1hj2×12hj2uk=1hjhjuk

これらを式(3)に適用して次式を得る。但し以下で[i+j]i+jを3で割った余りを表す。

(3)=1hkA~k(u)uk+A~k(u)hk[1h[k+1]h[k+1]uk+1h[k+2]h[k+2]uk]=1h1h2h3h[k+1]h[k+2]A~k(u)uk

◻

回転

主張

既出の記号の定義は引き継ぐ。さらにTC2級であるとし、次式が成り立つとする(例: 円柱座標系, 球座標系)。

(1)2rujuiruk=0({i,j,k}={1,2,3})

3次元Euclid空間上のC1級のベクトル場A(r)=i1A1(r)+i2A2(r)+i3A3(r)u1,u2,u3直交座標系で表したものをj1A~1(u)+j2A~2(u)+j3A~3(u)とするとき、次式が成り立つ。

=r×A(r)=j1h2h3[h3A~3u2h2A~2u3]+j2h3h1[h1A~1u3h3A~3u1]+j3h1h2[h2A~2u1h1A~1u2] =i=13jih[i+1]h[i+2][h[i+2]A~[i+2]u[i+1]h[i+1]A~[i+1]u[i+2]]

ここに[i+j]i+jを3で割った余りを表す。

導出

ベクトルのスカラー倍の回転」より次式が成り立つ。

r×A(r)=r×i=13Ai(r)ii=i=13r×Ai(r)ii=i=13(rAi(r))×ii

さらに「勾配」,「ベクトルの成分の変換」,「単位ベクトルの変換」より上式は次のように変形できる。

i=13j=13jjhjAi(r)uj×ii=i=13j=13jjhj(ujk=13A~k(u)hkriuk)×l=13jlhlriul

以下では表記の簡便さのため、A~k(u)を単にA~kと書く。上式の第m{1,2,3}成分を評価する。第m成分に寄与するのは(j,l)=([m+1],[m+2]),([m+2],[m+1])のときであり、計算すると次式を得る。

=i=13[1h[m+1](u[m+1]k=13A~k(u)hkriuk)1h[m+2]riu[m+2]1h[m+2](u[m+2]k=13A~k(u)hkriuk)1h[m+1]riu[m+1]](2)=1h[m+1]h[m+2]k=13[i=13(u[m+1]A~khkriuk)riu[m+2]i=13(u[m+2]A~khkriuk)riu[m+1]]

この式の[ ]内第1項を評価すると次式を得る。

=k=13i=13(u[m+1]A~khkriuk)riu[m+2]=k=13[(u[m+1]A~khk)i=13riukriu[m+2]+A~khki=132riu[m+1]ukriu[m+2]]=k=13[(u[m+1]A~khk)rukru[m+2]+A~khk2ru[m+1]ukru[m+2]]=(u[m+1]A~[m+2]h[m+2])h[m+2]2+k{[m+1],[m+2]}A~khk2ru[m+1]ukru[m+2]

最後の等号成立には式(1)を用いた。式(2)の[ ]内第2項も同様に評価すると、式(2)の1/(h[m+1]h[m+2])の右側の部分は次式になる。

=(u[m+1]A~[m+2]h[m+2])h[m+2]2(u[m+2]A~[m+1]h[m+1])h[m+1]2(3)=+k{[m+1],[m+2]}A~khk(2ru[m+1]ukru[m+2]2ru[m+2]ukru[m+1])

この式の第3項の()内を評価する。TC2級であると仮定しているから、微分順序の入れ替えが可能であることに留意する。k=[m+1]のときは次式になる。

=2ru[m+1]2ru[m+2]2ru[m+2]u[m+1]ru[m+1]=u[m+1](ru[m+1]ru[m+2])ru[m+1]2ru[m+1]u[m+2]2ru[m+2]u[m+1]ru[m+1]=ru[m+1]2ru[m+2]u[m+1]2ru[m+2]u[m+1]ru[m+1]=u[m+2](ru[m+1]ru[m+1])=h[m+1]2u[m+2]

k=[m+2]のときは次式になる。

=2ru[m+1]u[m+2]ru[m+2]2ru[m+2]2ru[m+1]=2ru[m+1]u[m+2]ru[m+2]u[m+2](ru[m+2]ru[m+1])+ru[m+2]2ru[m+2]u[m+1]=2ru[m+1]u[m+2]ru[m+2]+ru[m+2]2ru[m+1]u[m+2]=u[m+1](ru[m+2]ru[m+2])=h[m+2]2u[m+1]

これらの式を(3)に適用すると次式を得る。

(3)=(u[m+1]A~[m+2]h[m+2])h[m+2]2+A~[m+2]h[m+2]h[m+2]2u[m+1](u[m+2]A~[m+1]h[m+1])h[m+1]2A~[m+1]h[m+1]h[m+1]2u[m+2]=u[m+1]A~[m+2]h[m+2]h[m+2]2u[m+2]A~[m+1]h[m+1]h[m+1]2=h[m+2]A~[m+2]u[m+1]h[m+1]A~[m+1]u[m+2]

これを式(2)に適用して定理の主張を得る。

◻

投稿者: motchy

DSP and FPGA engineer working on measuring instrument.

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